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​STORY

僕は彼女がとっても好きだったんです。

どのくらい好きだったかというと、

「君の為なら全てを捨ててもいい」

と大真面目に言い放ったくらいでしたから。

それで、

彼女に何度か告白するんですけど全然駄目でして。

まあ、

彼女には彼氏が居たから致し方ないんですが、

彼女は僕を切ることはしなかったんですよ。

何故、僕を切ることをしなかったのは後ではっきり分かるんですが、

みんなとの飲み会の帰り、

 

「朝まで一緒に居て」

って彼女に耳元でこっそり言われて、

あの頃は携帯電話が無かったもんですから、

そういうこっそりがとっても生々しく鼓動を高めてくれたんです。

終電が無くなって、

幾つものホテルの前を通り過ぎて、

何度も入ろうとするけど彼女の手を引いて入れない惨めな自分が居て、

今度こそ今度こそと自分に言い聞かせるんですけど、

いつの間にか東の空が白々と明けていって、

最後はラジオ体操の音がガンガン掛かった公園のベンチでおしゃべりして終わったんです。

朝焼けの改札で彼女を見送った時、思ったんです。

 

僕は壊れたかったんだ。

壊れて、自制せずに彼女を思うがままにしたかったんだ。

いや、

彼女をどうこうじゃなくて、ただ僕は壊れたかっただけなんだと。

それからしばらくしたある夏の日。

突然、彼女が僕の住んでいたアパートに来て、こう囁いたんです。

「今度こそ、して」

その時の彼女は確実に壊れていて、

その彼女を見た僕は完全に壊れたんです。

 

そんな夜の話になると思います。

壊れて何も覚えてないけど。

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